IPSecのAHとESPの概要と比較
概要
IPSec(Internet Protocol Security)は、インターネット上でデータを安全に送受信するためのプロトコル群です。主にAH(Authentication Header)とESP(Encapsulating Security Payload)の2つのプロトコルを使用して、データの安全性を高めます。
AH(Authentication Header)
- 目的: データの改ざん防止。
- 特徴: データに認証ヘッダーを付加して、データの整合性を保証します。しかし、データの秘匿(暗号化)は提供しません。
ESP(Encapsulating Security Payload)
- 目的: データの改ざん防止と秘匿。
- 特徴: データを暗号化して秘匿性を保つと共に、整合性の保証も提供します。
TCP/UDP Header
- AH : 51(TCP)
- ESP : 50(TCP)
- IKE : 500(UDP)
パケット構成の違い
機能/構成要素 | AH | ESP |
---|---|---|
目的 | データの認証と整合性保証 | データの認証、整合性保証、および秘匿(暗号化)提供 |
IPヘッダー | あり | あり |
セキュリティヘッダー | AHヘッダー(認証情報含む) | ESPヘッダー |
ペイロード暗号化 | なし | あり |
認証データ | パケット全体にわたる | オプションで提供 |
ペイロード | ペイロード(暗号化されず) | 暗号化されたペイロード |
トレーラー | なし | あり(パディング情報等含む) |
メッセージ認証の違い
- AH: パケット全体にわたってメッセージ認証を提供し、データの改ざんを防ぎますが、秘匿性はありません。
- ESP: ペイロードの暗号化とオプションで認証データを提供し、データの秘匿性と改ざん防止の両方を実現します。
総合的に、ESPはAHに比べてより高度なセキュリティ機能を提供し、現代のインターネット通信においてはESPが一般的に推奨される選択肢となっています。
IPパケット内のESP構成要素の詳細
以下の表は、IPパケットにおけるESPプロトコルの構成要素(ESPヘッダ、IPパケット、ESPトレーラ、ESP認証データ)のバイト長、認証範囲、および暗号化される範囲について説明しています。
構成要素 | バイト長 (おおよその値) | 認証範囲 | 暗号化範囲 |
---|---|---|---|
IPヘッダ | 20〜60 | 認証されない | 暗号化されない |
ESPヘッダ | 8 | 認証される(オプションでESP認証データがある場合) | 暗号化されない |
IPパケット | 可変 | 認証される(ESPトレーラとESP認証データを除く) | 暗号化される(ESPヘッダ後のデータ) |
ESPトレーラ | 2〜(可変) | 認証される | 暗号化される |
ESP認証データ | 0、12、16 など可変 | N/A (自身は認証されるが、認証範囲には含まれない) | 暗号化されない |
説明
- IPヘッダ: 通常のIP通信で使用されるヘッダです。この部分は暗号化されず、ESPの認証範囲にも含まれません。
- ESPヘッダ: ESP処理の開始を示すヘッダです。暗号化はされませんが、認証データが含まれる場合、認証の範囲に含まれます。
- IPパケット (ESPペイロード): 実際のデータが含まれる部分です。このセクション全体が暗号化され、ESPトレーラを除いた部分が認証の範囲に含まれます。
- ESPトレーラ: パディングや次のヘッダを指定する情報が含まれます。この部分はデータと共に暗号化され、認証の対象ともなります。
- ESP認証データ: パケットの認証を提供するための追加データです。このデータ自体は認証されますが、暗号化されることはありません。また、認証の計算には含まれません。
この構成により、ESPはデータの秘匿性と認証を同時に提供することができます。ただし、IPヘッダは暗号化されないため、送信元と送信先のIPアドレスなど、一部の情報は暗号化されずに送信されます。