ネットワークスペシャリスト GRE

Generic Routing Encapsulation (GRE) は、異なる種類のネットワークトラフィックを他のプロトコルでカプセル化し、それをインターネットなどの異なるネットワーク上で転送するためのプロトコルです。

GREを採用する例

  1. IPv4とIPv6の間のトンネリング
    • シナリオ: 現在のインターネットは主にIPv4を使用していますが、IPアドレスの枯渇問題を解決するためにIPv6が導入されています。しかし、全てのネットワークやデバイスがIPv6に対応しているわけではありません。
    • GREの利用: IPv6ネットワークとIPv4ネットワークの間で通信する場合、GREトンネルを使用してIPv6パケットをIPv4パケット内にカプセル化し、IPv4インフラストラクチャを介して転送することができます。これにより、異なるプロトコルを使用するネットワーク間での互換性が確保されます。
  2. プライベートネットワーク間の接続
    • シナリオ: 企業が複数の拠点を持っており、それぞれの拠点が独自のプライベートアドレス空間を使用している場合、インターネットを介して安全に通信する必要があります。
    • GREの利用: GREトンネルを使用して、異なる拠点間でプライベートIPアドレスを使用した通信をカプセル化し、インターネット上で安全に転送することができます。このとき、GREトンネルはしばしばIPSecと組み合わせられ、データの暗号化と認証を提供します。
  3. マルチプロトコル環境での通信
    • シナリオ: 特定のネットワークがIP以外のプロトコル、例えばIPX(Internetwork Packet Exchange)やAppleTalkを使用している場合、これらのプロトコルをIPネットワーク上で転送する必要が出てきます。
    • GREの利用: GREは、IPXやAppleTalkといったIP以外のプロトコルをIPネットワーク上で転送するために使用できます。GREトンネルを通じて、これらの「異なる言語」での通信が可能になり、異なるプロトコルを使用するネットワーク間の接続が実現します。
特徴 IPSec GRE
基本機能 データの暗号化と認証 異なるネットワークプロトコルのカプセル化
セキュリティ 高 (データの暗号化と完全性保護) 低 (暗号化なし、ただしIPSecと組み合わせ可能)
柔軟性 IPベースのトラフィックに限定 高 (複数のプロトコルをサポート、マルチキャストとブロードキャストを含む)
実装の複雑さ 比較的高 (セキュリティポリシーの設定が必要)
パフォーマンス 暗号化/復号化によりオーバーヘッドが発生する オーバーヘッドが少なく、パフォーマンスが良好
マルチキャスト/ブロードキャストサポート 直接サポートなし (追加のメカニズムが必要) サポートあり
使用シナリオ** セキュアなVPN接続、企業間の安全な通信 マルチプロトコルルート、VPNのトンネルのカプセル化、マルチキャストルーティング
メリット - 高いセキュリティレベル - 柔軟なトンネリングオプション
  - データの機密性と完全性保護 - 設定と管理が簡単
    - マルチキャストとブロードキャスト通信のサポート
デメリット - 設定が複雑であることがある - 自体にセキュリティ機能がない
  - パフォーマンスへの影響 - セキュリティを強化するにはIPSecとの組み合わせが必要
  - マルチキャストやブロードキャストトラフィックの直接サポート不足  

わかったようでになれる理解

インターネットを旅する手紙(データパケット)を想像してみてください。この手紙は、ある特定の言語(ネットワークプロトコル)で書かれており、特定の宛先(ネットワーク)に届けられる必要があります。しかし、その手紙が旅する途中、異なる国(ネットワーク)を通過する必要があるとします。その国々は、手紙の言語を理解できないかもしれません。ここでGREが役立ちます。

GREは、その手紙(データパケット)を別の封筒(カプセル化)に入れる役割を果たします。そして、外側の封筒には、全ての国(ネットワーク)が理解できる共通の言語(IPプロトコル)で宛先が記載されています。これにより、手紙は無事に最終目的地まで届けられます。

手紙が目的地に到着したら、外側の封筒が取り除かれ、元の手紙が正しい宛先に配達されます。このプロセスにより、異なる種類のデータを、インターネットなどの異なるネットワーク上で転送できるようになります。

つまり、GREは異なる「言語」で書かれたメッセージを、共通の言語を話す「封筒」に入れることで、それがどんなネットワークを通っても、最終的に正しい宛先で正確な形で読まれるようにする技術です。これにより、様々な種類のトラフィックを柔軟に扱い、異なるネットワークシステム間で簡単に転送することが可能になります。

GREと似た技術との違い

  1. IPSec: IPSecは、インターネットプロトコルセキュリティを提供するための一連のプロトコルで、データの暗号化と認証を主な目的としています。GREと異なり、IPSecはデータの機密性と完全性を保護するために設計されていますが、GREのように多様なプロトコルタイプのカプセル化には特化していません。
  2. IP in IP: IP in IPは、IPパケットを別のIPパケットにカプセル化するシンプルな方法です。この技術はGREに似ていますが、IP in IPはIPトラフィックのみをサポートし、GREのように多種多様なプロトコルをカプセル化する柔軟性はありません。
  3. L2TP: Layer 2 Tunneling Protocol (L2TP) は、PPPフレームをIPネットワーク上でカプセル化し、VPN接続をサポートするために使用されます。L2TPはGREと同様にトンネリングプロトコルの一つですが、主にレイヤー2のデータリンク層プロトコルのカプセル化に特化しています。

GRE over IPsec

GRE over IPsecは、2つの異なるネットワーク技術を組み合わせたセキュリティとトンネリングのソリューションです。この技術は、Generic Routing Encapsulation (GRE) トンネルを用いて異なるネットワークプロトコル間でパケットを転送する柔軟性と、Internet Protocol Security (IPsec) を用いてそのデータの暗号化と認証を行うセキュリティを提供します。

  1. GREトンネルの構築: GREトンネルは、異なるネットワーク間でパケットをカプセル化し、1つのネットワークプロトコル(通常はIP)を使用して別のネットワークプロトコルのパケットをトンネル経由で転送します。これにより、例えばIPv6パケットをIPv4ネットワーク上で転送することが可能になります。
  2. IPsecの適用: IPsecは、トンネルモードで適用されることが多く、GREトンネルを通じて転送されるデータパケット全体を暗号化します。これにより、データの機密性と完全性が保護され、さらには送信元と宛先の認証も行われます。

関連記事