ネットワークスペシャリスト ロードバランサー

ロードバランサーについて

ロードバランサーは、複数のサーバー間でネットワークトラフィックを分散させるためのデバイスまたはソフトウェアのことです。これにより、アプリケーションへの負荷を効率的に分散させることができ、システムの可用性と耐障害性を高めることができます。

主な機能

  • トラフィックの分散: 複数のサーバーに対するリクエストを均等に配分します。
  • 可用性の向上: 特定のサーバーがダウンした場合に、トラフィックを他の健全なサーバーへ自動的にリダイレクトします。
  • スケーラビリティ: 需要の増加に応じて、追加のサーバーを容易に組み込むことができます。
  • セッション維持: ユーザーセッションを特定のサーバーに固定することで、セッションの継続性を保ちます。

種類

  1. L4ロードバランサー: レイヤー4 (トランスポート層) で動作し、IPアドレスとポート番号を基にトラフィックを分散します。
  2. L7ロードバランサー: レイヤー7 (アプリケーション層) で動作し、HTTPヘッダ、クッキー、メッセージ内容などの高度な情報を基にトラフィックを制御します。

実装方法

  • ハードウェアベース: 専用の物理デバイスを使用します。高コストですが、高性能と信頼性が求められる大規模環境に適しています。
  • ソフトウェアベース: ソフトウェアアプリケーションとして実装され、物理的または仮想サーバー上で動作します。柔軟性が高く、コストが抑えられます。

利点

  • システムの可用性と信頼性の向上
  • アプリケーションの応答時間の短縮
  • トラフィックの急増時のパフォーマンス維持

トラフィックの分散とセッション維持の種類

ロードバランサーにおけるトラフィックの分散とセッション維持には、いくつかの異なる戦略があります。これらは、アプリケーションの要件や特定の環境に応じて選択されます。

トラフィックの分散戦略

  1. ラウンドロビン (Round Robin):
    • シンプルな方法で、リクエストを順番に各サーバーに割り当てます。
    • 各サーバーがほぼ同等の処理能力を持っている場合に適しています。
  2. 最小接続数 (Least Connections):
    • 現在最小のアクティブ接続数を持つサーバーにリクエストを割り当てます。
    • サーバー間で処理能力が異なる場合に有効です。
  3. IPハッシュ (IP Hash):
    • クライアントのIPアドレスを基にハッシュ値を計算し、その値に基づいてサーバーを選択します。
    • クライアントごとに一貫したサーバー割り当てが必要な場合に適しています。

セッション維持戦略

  1. セッションクッキー (Session Cookies):
    • ロードバランサーがクライアントに一時的なクッキーを発行し、そのクッキーを使用してユーザーセッションを特定のサーバーに固定します。
    • アプリケーション層でセッション情報を管理する方法です。
  2. 永続的接続 (Persistent Connections):
    • 特定の時間内、またはセッションが続く間、クライアントのリクエストを同じサーバーにルーティングします。
    • TCP接続の再利用を促進し、セッション維持のために使用されます。
  3. カスタムヘッダーまたはパラメーター:
    • アプリケーション固有のヘッダーやURLパラメーターを使用して、リクエストを特定のサーバーにルーティングします。
    • アプリケーションが特定のルーティングロジックを必要とする高度なシナリオに適しています。

ロードバランサーのセキュリティ面について

ロードバランサー (LB) は、主にトラフィックの分散とシステムの可用性の向上を目的として設計されていますが、セキュリティ面での利点と限界があります。

セキュリティ面での利点

  1. トラフィックの分散によるDoS攻撃の緩和:
    • LBは、サーバーへのトラフィックを分散させることで、単一ポイントへの過負荷攻撃(DoS攻撃)の影響を軽減することができます。
  2. ヘルスチェックによる自動フェイルオーバー:
    • ヘルスチェック機能により、攻撃や障害によってダウンしたサーバーを検出し、トラフィックを健全なサーバーに自動的に切り替えることができます。
  3. SSL終端:
    • 一部のロードバランサーはSSL終端機能を提供し、暗号化されたトラフィックの処理をサーバーからLBに移行することで、セキュリティを強化し、バックエンドサーバーの負担を軽減します。

セキュリティ面での限界

  1. アプリケーション層の攻撃への対応:
    • LBは主にレイヤー4(トランスポート層)またはレイヤー7(アプリケーション層)で動作しますが、複雑なアプリケーション層の攻撃(例えば、SQLインジェクションやクロスサイトスクリプティング)に対する直接的な保護機能は限定的です。
  2. 包括的なセキュリティ策の欠如:
    • LB自体は、侵入検知システム(IDS)や侵入防止システム(IPS)、ウェブアプリケーションファイアウォール(WAF)など、より広範なセキュリティ機能を直接提供しない場合があります。

ロードバランサーは、DoS攻撃の緩和やSSL終端によるセキュリティの向上など、セキュリティ面での利点を提供しますが、アプリケーション層の攻撃や複雑なセキュリティ脅威に対しては、追加のセキュリティ対策が必要です。最適なセキュリティ体制を確立するためには、ロードバランサーを含む複数のセキュリティコンポーネントを組み合わせた総合的なアプローチが推奨されます。

ロードバランサー (LB) とリバースプロキシサーバーの違いと使い分け

ロードバランサー (LB) とリバースプロキシサーバーは、クライアントからのリクエストをサーバーに転送する役割を果たしますが、その目的と機能には明確な違いがあります。

ロードバランサー (LB)

概要

  • ロードバランサーは、複数のサーバー間でトラフィックを分散させることに特化しています。
  • 高可用性と冗長性を提供し、システム全体の負荷を管理します。

主な機能

  • トラフィックの分散
  • ヘルスチェックによるサーバーの可用性監視
  • 自動フェイルオーバー

使い分け

  • 大量のトラフィックを扱う大規模なWebアプリケーションやサービスで使用されます。
  • サーバーの負荷を効率的に管理し、可用性を高める必要がある場合に適しています。

リバースプロキシサーバー

概要

  • リバースプロキシサーバーは、クライアントに代わってサーバーからのリクエストを受け取り、そのレスポンスをクライアントに返します。
  • バックエンドサーバーを隠蔽し、セキュリティの向上やキャッシュ機能を提供します。

主な機能

  • キャッシング
  • SSL終端
  • セキュリティ強化(バックエンドサーバーの隠蔽)
  • 負荷分散(リバースプロキシも負荷分散を行うことができる)

使い分け

  • セキュリティの向上やキャッシュ機能を利用してWebアプリケーションのパフォーマンスを向上させたい場合に適しています。
  • 複数のサービスやアプリケーションへの統一的なアクセスポイントを提供するために使用されます。

使い分けのポイント

  • ロードバランサーは、主にサーバー間でのトラフィック分散とシステムの可用性向上に焦点を当てています。
  • リバースプロキシサーバーは、セキュリティの向上、キャッシング、および特定のトラフィック管理機能を提供することにより、バックエンドサーバーの負荷を軽減します。

LBから直接Webサーバーへの接続 vs LBを経由してリバースプロキシを介したWebサーバー接続

ロードバランサー (LB) から直接Webサーバーに接続する構成と、ロードバランサーを経由してリバースプロキシを介し、その後にWebサーバーが配置される構成は、実際に一般的に使用されているアーキテクチャです。それぞれにはメリットとデメリットがあります。

LBから直接Webサーバーへの接続

メリット

  • シンプルな構成: 構成がシンプルであるため、セットアップと管理が比較的容易です。
  • レイテンシの低減: 中間層が少ないため、理論上はレイテンシが少なくなります。
  • 直接的なトラフィック制御: LBは直接Webサーバーにトラフィックを分散するため、精密な負荷分散が可能です。

デメリット

  • セキュリティ: リバースプロキシによる追加のセキュリティ層がないため、Webサーバーが直接攻撃に晒されやすくなります。
  • キャッシングやコンテンツの最適化の欠如: コンテンツのキャッシングや最適化を行うための中間層がないため、パフォーマンスの向上が限られます。

LBを経由してリバースプロキシを介したWebサーバー接続

メリット

  • セキュリティの強化: リバースプロキシが追加のセキュリティ層として機能し、Webサーバーへの直接アクセスを防ぎます。
  • キャッシングとコンテンツの最適化: リバースプロキシを使用してコンテンツをキャッシュし、配信を最適化することができます。これにより、Webサーバーの負荷が軽減され、応答時間が短縮されます。
  • SSL終端: リバースプロキシでSSL終端を行うことができ、セキュリティの管理を一箇所で集中化できます。

デメリット

  • 複雑な構成: 追加のリバースプロキシ層を導入することで、アーキテクチャが複雑になり、管理が難しくなる可能性があります。
  • レイテンシの増加: 中間層が増えることで、理論上はレイテンシが増加する可能性があります。

結論

  • セキュリティとパフォーマンスが重要な場合、 リバースプロキシを介した構成が好ましいです。セキュリティの強化、キャッシング、SSL終端などの機能を利用できます。
  • シンプルさとコストが重要な場合、 直接Webサーバーに接続する構成が適しています。管理が容易で、初期設定や維持コストが低い可能性があります。

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